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昼休みが始まって三十分も過ぎた頃、まりあに半ば無理矢理昼食の席に連れて来られた透の隣に落ち着いていたさくらの弁当箱も、すっかり空になっていた。
他人の恋路を邪魔する奴は、馬にでも蹴られてしまえ──。
どこからか空耳が聞こえきたが、残った昼休みを持て余し、さくらはまりあと透の談笑に混じっていた。
「美咲さん」
不意に高等部二年生の手芸部副部長、今井妃影に名前を呼ばれた。
まりあが透に明日の献立は何が良いかと訊ねていた時のことだ。
妃影の落ち着いた柔らかな声に、さくらは振り向く。
「今井先輩。どうかなさいましたの?」
「ええ、お休みのところ悪いんだけど──部室に行って、『欧米の服飾史』という文献を探してきてくれないかしら」
「ああ、中二の子達が資料に使いたいって言ってたあれか……。それなら僕が」
「いいえ、先輩!行きますわ」
透の言葉を遮って、さくらは席を立ち上がる。
暇を持て余してまりあと透の間に入っていたが、可能なら彼らを二人きりにしてやりたかった。
今時ありえないほど鈍感な透は、さくらの意図にきっと一生気付いてくれない。が、まりあのためだ。
さくらは自ら使いに出ることにした。
「そ、そう?まあ、美咲さんなら安心ね。透先輩や麻羽さんじゃ迷って帰ってこられなくなる心配もあるけれど」
「あー!今井先輩、それどういう意味ですかっ?!」
「大丈夫だよ、麻羽ちゃん。美咲さんが次期部長候補なら、いつもセットな麻羽ちゃんは副部長に十分考えられる」
「あらあら、それは可愛らしい部になりますわね」
「お人形さんとお姫様ってところかな?」
「美咲さんがお人形さんで、麻羽ちゃんがお姫様……。うふふ、次の文化祭のファッションショーはその線でいきましょうか」
どんどん脱線していく透と妃影のやりとりに、さくらは口を挟めなくなった。
からかわれているのか、過大評価されているのか、分からない。
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