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こんな時、二人の上級生達に食いつける度胸があれば良かったのだが、いかんせん、さくらは大和撫子を絵に描いたような妃影に弱い。
長い豊かな黒髪は艶やかで、大人びた目元はいつも微笑んでいるような妃影には、さくらには届かない貫禄がある。
もし、日本版白雪姫がいたとすれば、妃影みたいな女性を指すのではないか。
「あの、『欧米の服飾史』ですわよね?行って参ります」
「あ、え、ええ。よろしく美咲さん」
「ごめんね、有り難う」
結局さくらは逃げるように、透達からいそいそと離れた。
* * * * * * *
手芸部の部室は南校舎にある。
普段さくら達がいる家庭科室や科学室などの特別教室は主に南の東校舎にあるのだが、各々の部室は南校舎に集めてあった。
演劇部が稽古場にしている教室も、平常授業のある日は選択授業──つまり世界史や英会話の移動教室に使われていた。
南校舎に到着し、さくらは重たい扉を開けた。
"ああ……この階段、何とかならないのかしら……"
校舎に入ってすぐ目の前に階段が見えると、さくらはくじけそうになる。
この高い急な階段を六階まで上らなければ、手芸部の部室に行けないからだ。
もっとも、文句を言っても仕方がない。
さくらは階段を上り始めた。
* * * * * * *
「ネタは上がってんだよ。おとなしく来やがれこのヤロー!」
普通に生活している限り、ドラマや映画でしか聞けないようなだみ声だった。
物凄い怒声が上階から響き渡ってきて、さくらの足が硬直した。
ようやく東校舎の三階を過ぎた時のことだ。
しいんとした校舎に響き渡った怒声は迫力があり、さくらの足元にまで振動が伝わってきた。
"不良っ?侵入者?まさか生徒の方達が喧嘩してるのっ?"
どちらにせよ、不穏な気配がさくらの行く手にあることには間違いなかった。五階へ、六階へと上って部室に行かなければならない時に、とんでもなく傍迷惑な輩がいたものだ。
さくらは文句を言いたくなったが、かなしいかな、そんな勇気はない。
「俺様にここまで足を運ばせやがって……ったくぅ、無視ってかぁ?!ぇえこらぁぁあ?!良いご身分でござんすなぁ。おらおら」
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