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「美咲さんが、好き。好きでいさせて。…──愛情、の意味で好き。見返りはいらない。いつか返事を聞かせてくれれば、今はまだ、貴女の側にいられるなら、そういうのも幸せかなって。美咲さんのものに、なりたかったぁ」
「……弦祇先輩……」
「このはって呼んでよ。私も、さくらちゃんって呼ぶ」
「──……」
「…──みたいに」
小さく零れたこのはの声が何を言ったか、さくらは聞き逃した。
ただ、得も知れない懐かしさにさくらの魂(こころ)は占拠された。
このはと触れ合う手の温もりが、さくらには初めてのものではない気がした。
「……このは先輩……」
顔を上げたこのはと目が合った。
綺麗な黒曜石が濡れたみたいな、真っ直ぐな大きな瞳から、さくらは目を逸らせなくなる。
気高くて純粋で、透明な──このはの瞳。
やはり、さくらは初めて見た気がしなかった。
「髪、ふわふわのさらさらだぁ」
癖毛だらけのさくらの栗色の髪がこのはの指に絡め取られると、さくらは今度こそ息が出来なくなりそうだ。
このはと真淵のいざこざの真相を、結局、さくらには知ることが出来なかった。
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