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もっとも、莢にしてみれば、少女を赤の他人として見るにはあまりに忍びない。
少女のあどけない顔立ちをより可憐に引き立てる大きな目や、徹底して白い肌はさることながら、肉体美とは縁遠い幼児体型も、却って媚びたいやらしさがなく好ましい。
顔を合わせ、互いに名を知り、言葉を交わして一時間少し経っただけだが──間違いない。
この目前の妖精こそが、自分がずっと探し求めていた運命の少女だと、莢は確信していた。
彼女ほど、自分を懐かしい気持ちにさせてくれる少女に、莢は未だかつて逢ったことがない。
中より上の容姿も合格ラインだ。少女から香る仄かな花の香りは、わざとらしさがまるでない。
純粋な魂も、汚れない真っ直ぐな精神も、気高さも、この少女には溢れんばかりに内在している。少し話しただけで分かった。
もうお嫁に行けない、と、金髪の少女はわざとらしく両手で顔を覆った。
無邪気な仕草に口元が弛む。
立ち上がり、莢は少女の手首に片手を伸ばした。
「えーっと、弦祇このは(つるぎこのは)ちゃん?」
「馴れ馴れしく呼ばないでっ」
キッと莢をねめつけた少女、つまりこのはの瞳には、涙なんて浮かんでいない。
やはり嘘泣きだったかと、莢は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「じゃあこのは。あ、"様"付けしようか?確かに、私は無礼者でした。まさか貴女がそんなにドライになっていたとは知らなくて──」
「はっ?!何言ってんの?!」
「前はさ、二人きりの時だけ、馴れ馴れしくさせてくれてたじゃない。そりゃあ貴女は一国の王女だったから、公共じゃ私だって体裁は守ったけど」
莢はこのはの腰に腕を回して、身を寄せた。
このはの肢体は思った通り、まるで莢の腕に抱かれるために存在していたように収まった。
饒舌な女たらしを気取っていても、莢の鼓動はどくどくと嫌な音を打っていた。
それが単純な恋の高揚感からくるものではないと、莢は自覚していた。
怖いのだ──このはに拒まれることが、莢は怖い。
莢とこのはは出逢ったばかりだ。しかし、それは今生での話だ。
遡ること数千年前、このはの魂を宿した少女と、莢は確かに一緒にいたのだ。
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