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今日までの日々は、気も遠くなりそうに長かった。
もう離さない。
莢の口は、もはや軟派な科白も出せなくなった。気晴らしに戯れる少女達にはそつなく向けられる朝飯前の甘い笑顔も、今の莢には繕えない。
このはが愛おしすぎて、壊したくない、逃がしたくないといった思いが、莢を慎重にさせるのだ。
前世の記憶を持って生まれた人間は、超能力者の数より少ないだろう。莢の魂がこのはをリーシェだと断言しても、肝心のこのはが莢を──カイルを覚えているとは限らない。
もとより、莢の勘とて絶対に正しいとは言いきれない。
それでも、このはは空っぽな自分を救ってくれる。
根拠もなく、莢は確信していた。
「──リーシェ様。俺は、…──貴女に一目逢いたかった……」
莢と同じ、黒曜石にも似たこのはの黒い大きな瞳が、その時、歓びと哀しみとの狭間で揺れた。
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