出逢いは突然のハプニング

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    春休みの私立西麹学園は、生徒達の熱気で活気づいていた。  都心から少し外れた土地に建つ、男女共学の中高一貫教育のエスカレーター式進学校──西麹学園には制服もなく、校風は極めて自由だ。  春休みだから授業もない分、学園内はいつになく開放的だ。生徒達は皆、思い思いに部活や補講に勤しんでいた。  もうじき高等部への進学を控えた美咲さくら(みさきさくら)も、例外ではない。  春の匂いがそこはかとなく漂うこの時期、自主的に登校する生徒達のほとんどは、部や委員会に所属している。  さくらは手芸部員だ。但しこの春休みに限って、部活には有志で参加していた。  何しろ春休み中の部活と言えば、新入生歓迎会に向けて準備を進めるためにある。  三日前、さくらは三年間通った西麹学園中等部の卒業式に、出席した。今年度の卒業生だ。来月、毎年恒例の学校行事──新入生歓迎会には新入生として出席する資格があり、迎えられる立場のはずだ。  従って、本来さくら達中学部の卒業生は、活動に参加してもしなくても良い。  部によっては中等部、高等部に分かれている団体もある。そういった部員達の場合、中等部を卒業する際、一端は引退扱いになる。  そんな事情もあって、春に高校一年生になる生徒達には、春休みの休部が認められていた。  さくらの属する手芸部のように、中等部と高等部の生徒が合同で活動している部活でも、それは同じだ。  にも関わらず、中学を卒業したばかりのさくらは春休み、登校して手芸部に毎日顔を出していた。  今年の新入生歓迎会で、手芸部はファッションショーを行うことになっている。  さくらは衣装を製作していた。  やってもやらなくても良い努力をわざわざやっているのには、れっきとした理由があった。  "……あ。先輩だわ……"  手芸部の活動場所──家庭科室の作業台に向かって淡い色の小花柄の生地を仮縫いしていたさくらは、つと手を止めた。  出入り口の扉の向こうから、甘いソプラノの声が聞こえてきたからだ。
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