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杏「……キスしたら大人なの?」
微かに滲むのは敵意だろうか、苛立ちだろうか。
ただ、何れも矛が向くのは俺ではないのか……
杏「キスする事が大人だって言うなら……」
それは、静かに紡がれる言葉の終りと、同時に――
――甘い香りがした。
柔らかで、甘い香りが。
鼻腔に残る杏の香りと、唇に残る柔らかな感触。
ほんの一瞬なのか、それとも数秒なのかはもう解らない。
ただ気が付くと、横顔はなく、眼前一杯にある杏の顔。
痺れた頭は、ただもう一度、触れたがる。
夏の喧騒は耳に届いていないのか、ただ静かに。
互いの鼓動だけを耳にして、二度三度と触れるだけの口付けを交わし――
――無言のまま、暮れ泥む街を歩く。
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