最後の帝国

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 西暦2015年、世界はアメリカ合衆国を中心とした資本主義陣営とソビエト連邦を中心とした社会主義陣営に二分された米ソ冷戦が継続されている。  そして東アジアの島国である日本は、『大日本帝国』の国号の下で世界唯一の帝国国家として存在し続けていた。  現代までの大日本帝国の軌跡を辿って行けば、日露戦争の時代まで遡る事になる。  20世紀初頭の事、東アジアへ影響力を延ばそうとしたロシア帝国と誕生から三十数年と間もない弱小国家の大日本帝国は、両国の利権が絡む朝鮮半島の主導権を巡り戦争となった。  中国満州の大地で日露陸軍は激戦を繰り広げた。日本陸軍は遼陽、旅順、奉天の南満州の主要都市をロシア軍から奪い取る。しかし日本軍は開戦来の戦闘で予想を上回る被害と消耗に合い戦力は限界に達していて、これ以上のロシア軍との一大戦闘は不可能となった。  一方、ロシア軍の戦力は健在で日本軍を上回る規模であったが兵馬の足並みを奪う悪天候が続き日本軍への反撃を見送る状態が続いていた。  日露陸軍は雌雄を決せぬまま戦争の命運を分けた明治37(1905)年5月27日を迎えた。ロシア海軍のバルチック艦隊が日本海対馬沖で日本海軍連合艦隊と激突した。日本海海戦である。  ヨーロッパのバルト海から大西洋アフリカ大陸沖を通り、日本海まで半年間の長期航海を続けたバルチック艦隊は各艦艇の整備や兵員の訓練が不十分な状態だったのに対し、連合艦隊は統率された抜群の艦隊運動と砲撃により終始バルチック艦隊を圧倒し、二日間の海戦でバルチック艦隊を壊滅させた。  命からがらウラジオストクの海軍基地についたのは巡洋艦一隻と駆逐艦二隻だけで、後は撃沈されたか、降伏したか、中立国へ逃走してそこで武装解除されたかである。  連合艦隊の被害は水雷艇三隻の損失のみで、主力艦の被害で致命的な艦はなかった。  日本海海戦のロシア海軍の敗北は日本海での日本海軍の制海権を揺るぎないものとさせた。更に開戦から日本海海戦までの戦いでロシア海軍は日本海軍と戦える戦力を喪失させてしまったのだ。  敗戦続きで厭戦気分の濃厚となったロシア政府と財政破綻寸前の日本政府が戦争終結に向けて動き出した。  アメリカの仲介によって講和条約が締結され戦争は終わった。日本は大国ロシアに勝ったのだ。
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