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いや、固まらざるをえなかった。
そこには『女の子の形をしたリアルすぎる雲』が迫ってきていたのだから。
……お、おかしいなぁ。雲って、白いと思ってたんだけど、色が付いて見えるや。
あまりにも異常すぎる目の前の光景に、思考の処理速度が一段階低下する。
……えーと、うん。これはきっと、新しい発見だ。そうだ、そうだとも、そうに決まってる。
自分の中の常識を保つために、苦しい言い訳を自分に言い聞かせようとしたが、僅かに残った正しい理性が現実を見つめて叫んだ。
――現実逃避している場合じゃないだろ!
急激に影が近づいて来ている。というか、女の子が空から降ってきている。
アニメの見過ぎで変な幻覚を見ているとか、そういった事でなければ、間違いなく女の子が空から降ってきていた。
……落ち着け、俺。こんな時どうすればいい?
焦る中、必死に思考を巡らす。とはいえ、こんな異常に対応した経験などあるはずもなく、とるべき行動が思いつかない。
こんな非現実的な現象には現実的なものは参考にできない。もっと有り得ないものを参考にしなければ……。
アニメの主人公なら、こんな時にはどうする?
自分の思考をアニメの主人公と同化させて対応を考える。ここで行うべき行動は『キャッチ』だ。
キャッチすることに決めた俺は急いで、空から落ちてくる少女を受け止めるように、両手を広げた。
どんどん少女の体が大きく見えてくる。
空から降ってくるって事は、天使か何かだろうか?
などと幻想的なことを考えてみるが、流石にそれはないだろう。どうせ、スカイダイビングに挑戦したけど、パラシュートを開けなかった、みたいな現実的な理由がある。
そんな事を考えている俺のもとへと、少女は勢いよく落下した。
「ぐはっ」
同時に、俺の意識は遠ざかってゆく。
…………。
俺、どれだけ焦っていたんだよ。
普通に考えて、空から降ってくる少女を受け止めきれるわけがないだろ。
…………。
あぁ、体に力が、入らない。
これはホントに、ヤバいな。
…………。
俺の意識は完全に、闇へと溺れていった。
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