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幼い僕にとって、母を亡くしたばかりの父は以前から愛情を注いで貰った記憶が無い程、親子と呼ぶには憚(ハバカ)られる間柄であり、見ず知らずの他人よりも遠い存在でしかなかった。
それは名門貴族、ゴッドフリード家の家長という重責から鑑みたものだったのかもしれないが。
父が何かに心を砕くという姿を目にしたことは一度も無かった。
ただ、母様に寄り添う僕とエルザの姿をこっそりと覗き込んでは、何をするでもなく立ち尽くしており、双眸に宿る暗い陰をいつも周囲に突き刺してばかり居た……
――家族と向き合う術を知らないために――
そんな父の瞳に僕が気付くこともなく。
僕達の未来を愁いていた母様も。
勿論、エルザに対してもそれは変わらないのだと信じていたのに……
悪夢は突然訪れた。
前触れなど、一切無い。
母様を天に見送る迄は、僕達は父に捨てられた悲しい子供達で居られたのに……
何時の頃からだろう。
凍てつくような空気の中で、ただ食物を口に運ぶだけの晩餐を終えると、終始無言な父が従僕に目配せをするようになったのは。
そして、父が退室したというのにエルザがちっとも笑ってくれなくなったのは……
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