第1章

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― ― ― 始めは見間違いだと思っていた。 なぜなら、この庭は数ある邸内の庭園の中でも一際小さく入り組んだ場所にあるのだから。 【カツン】 阿舎に足を踏み入れれば、すぐ正面に金の髪をそよ風に遊ばせるように長椅子で眠り込むクラウスの姿があった。 伸ばした指先を規則的な寝息が撫でる。 意を決して、触れた頬の温もりがこの出会いが現実のモノなのだと実感させてくれた。 一陣の風に舞い上がる木々のざわめきが、静寂を優しく揺るがす。 此処には私達以外は誰も、居ない…… 跳ねる鼓動に急かされるように。 吐息が鼻先を掠めるくらいに近付けば、もう止められなかった…… 重なる唇に、胸の奥が烈しく痛みだす。 きっと、これが最初で最後のキスになるのだろう。 それでも触れたかった。 たとえ、刹那の瞬きの間に消え逝く想い出になってしまったとしても…… そっと唇を離しその整った目鼻立ちをなぞるように見詰めれば。 眠っている筈のクラウスの睫毛が微かに震えている。 「……ッ//////!!」 慌てて後ずさると、そのまま阿舎を背に走り出した。 その背を見送る氷の様に鋭利な視線に気付かずに……
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