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耳元で声がする。
眩い視界に浮かびあがる、この人影は誰だ……?
重い瞼を押し上げれば、よく見知った端正な顔が目に飛び込んできた。
「……エ、ル……?」
「残念ながらエルザじゃないわ!」
ピシャリと言い放たれた高い声音が鼓膜を貫く。
眠気を払い落とすように首を振るって顔を上げれば、怒りに充ちた眼差しを向ける少女が一人……
「こんな処で居眠りだなんて、使いの者が過って手紙の中身を取り違えてしまったのかしら?」
久方振りに耳にした、その高圧的な物言いに改めて溜息混じりの欠伸を噛み殺す。
彼女の名はヴィクトリア・ド・ゴッドフィールド。
ゴッドフィールド一門に名を連ねる子爵令嬢にして。
僕が生まれる以前より定められていた婚約者であり。
エルザが亡くした色彩を取り戻したのかと見紛しまう程によく似た面差しを持つ僕の従姉妹……
僕はこの従姉妹が幼い頃から苦手だった。
「……随分早い訪問だね、レディ。フィリップは?」
顔を覆いながら問い掛ければ。
「二年振りに再会する婚約者を差し置いて、お兄様をだなんて、相変わらずねクラウス!」
「……これは失礼……」
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