目覚めのアリス

8/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 ……一言くらい、説明してよ……  私は、瞬時に何が起きたか悟った。  確か、童話のアリスにも小さくなる飲み物や食べ物があった気がする。  カイが飲ませたのは、その小さくなる飲み物だったようだ。  不思議な事に、服はしっかり着ている様だし、もうどこに突っ込んだらいいのかわからない。 「おいアリス、ちょっと聞け」  カイは私に向かって言う。  一言文句を言いたかったが、聞いてくれない気もするし、そもそも聞こえるかどうかすらわからないので、やめた。  不満だが、大人しく頷いておく事にする。 「めちゃめちゃ不満な顔すんなよ。……えーとだな、こっから先、お前は何があっても絶対喋るな。で、大人しくここにいろ」  ここ、と指差したのは、カイのフードの中。 「なんで喋っちゃだめなの?」 「パンジー共が騒ぐからな」 「……はぁ?」  訳が分からず聞き返すが、カイに、乗れと言わんばかりに手を差し出されてしまった為、仕方無しに手の平へ飛び乗った。  不満な顔を崩さない私に、シェイルは苦笑を浮かべながら、 「行けばわかりますよ。……絶対に、口を開いてはいけませんよ?」 「わかった」 「アリス……お前、シェイルにはえらく素直だな」  カイの言葉はそっぽをむいてスルーした。  さっきから、人の話を聞かない方が悪いのだ。  カイは諦めた様に、一つため息をついた後、私をフード部分に放り込む。  痛みはないが、舌を噛みそうになったので、あとからしっぽか耳を思いっきり噛んでやろうと心に誓った。 「……いくぞ。アリス、喋るなよ」  最後にもう一度念押しして、カイが歩き出す。  フード部分だから、かなり揺れるかと思えばそうでもなく、ゆらゆら揺れる感じが心地よかった。  周りが見えなくなってしまったので、とりあえずは到着するまで何もすることがなくなってしまい、暇をもて余した私は……  つい、その心地よい揺れに身を任せ、目を閉じてしまった。  ゆるゆると、夢の中に引き込まれていくまでに、さして時間はかからなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!