378人が本棚に入れています
本棚に追加
夜中
彼からのベルが鳴ると
こっそり部屋の子機から電話をかけた。
「もしもし?」
「ごめん、寝てた?」
「大丈夫だよ~」
どんなに遅い時間でも
たとえ寝ていても
ベルが鳴れば
私は
すぐに起きた…
いつ彼から連絡が来ても良いように
ポケベルは
いつも枕元に置いていた。
「今日お店暇でよ~」
「そうなんだぁ。
暇だと逆に疲れちゃうよね」
「だからよ~癒してくれる?」
「バーカ」
声をひそめて2人で笑う…
こんなやり取りさえ
嬉しくて…
「多分、今日5時には仕事上がれると思うから
朝から家来る?」
「うん、行く~」
さらに嬉しい誘いに
私はすぐに返事をした。
「あっ…学校行ってからにするか?」
「もうすぐ就職休みに入るし、
休んでも大丈夫だよ」
「じゃあ、終わったら
また連絡するな。
ちゃんと寝ておけよ~」
「分かったぁ。後でね」
電話を切り
顔がにやつく…
しばらく眠れずに
窓辺に座り空を見上げる…
冬の空は
深い色をしていた…
星は見えなかったが
私の大好きな冬の空だった…
冷たい風に
身震いすると
再びベットに入り眠りについた…
右手には
連絡が来るだろう
ポケベルを握りしめて…
朝がやってくる…
荒々しい目覚ましの音が
部屋中に鳴り響く。
時計の針は
8時を指していた。
急いで握りしめたままの
ポケベルを見る…
彼からの連絡は
…なかった…
この日は
一度も彼から
連絡が来る事はなかった…
最初のコメントを投稿しよう!