短編

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  「知念」 「うん?」 「約束、しよっか」 電車に乗った圭人が、こちらを振り向いた。少しだけ、目が潤んでいるように見える。もしかしたら僕の目が潤んでるからそう見えるのかもしれないけど。笑顔で送り出すのは、どうあっても無理みたいだ。 「絶対また会おう」 言外にサヨナラなんて嫌だと言われたような気がして、唇を噛んだ。何か喋ったら飲み込んでいた言葉たちが出てきてしまいそうで、何も言えずにあいまいに手を振った。 「知念」 俯いているからは顔は見えないけど、分かる。だって声が震えてるから。きっと圭人、今泣いてる。ねえ圭人、僕圭人のことはなんでもわかるつもりだよ。 顔を上げようとしたら、無情にもドアが閉まって電車が動き始めてしまった。言おうとした言葉はどこかに吹っ飛んでしまって、僕は言葉の変わりに大きく手を振った。絶対また会おうねの気持ちを込めて、離れていく圭人にも見えるように大きく、大きく。 僕の気持ちは届きましたか End
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