短編

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  券売機の一番端の一番高い切符が行く町を、僕はよく知らない。知っているのは名前だけ。どんな人がいるかとか、どんなものがあるかとか、そういうことは全く知らない。今までは別に知る必要もないと思ってたけど、今は知らないということがひどく悲しかった。今はまだ隣にいるのに、なんだか圭人を遠い存在のように感じる。 とはいえ一緒に行くなんてできないから、僕は一番安い入場券を買ってそれを大事に大事に鞄にしまった。すぐに使うことは分かっていたけれど、それでも少しでも長く一緒に居たかったから。 「圭人」 「ん?」 そんなに優しい顔をして振り向くなんて、ずるい。なんだか胸がいっぱいになってしまって何も言えなくなって無言で手を差し出したら、小さく笑って手を繋いでくれた。 改札について、繋いでいた手を離す。わざとゆっくり入場券を取り出して、時間稼ぎ。ねえはなれたくないよ、ずっとそばにいたいよ。でもそんなこと言っても困らせるだけから、言わずに飲み込んだ。 「あ…」 改札に鞄をひっかけて、圭人が少し眉を下げて僕を見る。いつもの調子でしかたないなあって言おうと思ったけど、うまく笑えそうになかったからやめた。目を合わせずにこくりと頷いて、頑なに引っ掛かる鞄の紐に手を伸ばす。この鞄は僕の気持ちが分かってるのかな、同調してるのかな、なんてくだらないことを考えてちょっとだけ現実逃避。ちゃんと笑顔で送り出せるように頑張るから、ごめん、ちょっとだけ時間をちょうだい。わざとゆっくりめに紐を外して、小さく息を吐く。 「ありがとう」 「ううん」 いよいよお別れだ。僕は、大好きなこの人を笑顔で送り出さなきゃいけない。追い討ちをかけるように、ベルが鳴り響く。すぐに電車がきて、ドアが開いた。圭人だけの、ドア。僕は、ここでサヨナラだ。  
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