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「なんだ、これ…?」
俺は立ちすくんだ。瞳と美咲の悲鳴が聞こえた。飛び散った血が頬につく。翔太は腰を抜かし、尻餅をついている。
もはや役割を失った袋のような右腕の皮膚がだらりとたれていた。そして肘から骨のように伸びるチェーンソー。明らかに異常だった。杉下の右腕はチェーンソーと化したのだ。
「ハァ…ハァ…」
杉下は荒い息で、自分の腕を見て目を見開いていた。
「おい…杉下…?」
俺は震える唇を噛み締め、なんとか声をだした。しかし、杉下は口元を歪める。
「智也ぁ…見ろよこれ…すごいと思わないかぁ…」
目が完全に狂っていた。焦点がまったくあっていない。
「ハハ…ハハハ…」
杉下が急に笑い出す。俺は少しずつあとずさった。
「智也!!」
翔太が叫んだ。俺はハッとした。目の前でチェーンソーと化した右腕を振り上げていた。俺は震える足で一歩引いた。チェーンソーが轟音でうなり、その振動を空気で感じた。
「智也!!逃げろ!!」
カズノリが声が聞こえた。
「なんなんだよっ!?」
俺は身を翻し、背を向けて走り出した。恐怖からか、足がもつれてうまく走れない。背後からチェーンソーの音が迫る。杉下は正気を失い、叫びながら追ってくる。その叫び声はもはや笑い声にちかい。
「!!」
その瞬間、俺は足がもつれ、頭から転んでしまった。振り返ると、目の前で杉下がチェーンソーをうならせていた。
―死ぬ
血の気がひいた。死の恐怖が音と共に俺の体へ浸透していく。
「智也ぁ!!」
美咲の金切り声が聞こえた。
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