第1章

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「杉下…あなた…」 瞳が心配そうに顔を覗き込んだ。杉下はガクガクと震えていた。うつろな目はもはや正気ではない。 「ねえ、知ってる?」 突如、杉下が震える声で平然と言い出した。 「人間は普段、持ってる力の40%くらいしか出してないんだって。その気になれば車一台持ち上げられるらしいよ。」 瞳が怪訝な顔をして、後ずさった。 「あなた、こんなときになにいってるの?」 杉下は続ける。 「信じられるか?車一台だぞ。だったら僕は思う。人はその気になれば宙に浮いたり、土に潜れるんじゃないかって。」 「杉下…?」 俺は警戒し、2、3歩後ろに下がった。杉下は明らかに異常だ。 「そんなことができるんだったら、これも説明できるよなぁ。なんなんだよ、これぇ!?」 杉下はいきなり狂ったように叫び、隠していた右手を高々と挙げた。 「なに…?これ…?」 美咲がいまにも泣きそうな声を上げた。信じられない光景が目の前にあった。杉下の右腕は通常の3倍以上に膨れ上がっていた。真っ赤にただれ、中で何かがうごめいている。 「おい…杉…下…?」 俺はそのおぞましい光景に声が震えていた。 「なんとかしてよ!?ねぇ!?助けてよ!?ねぇ!!!あ…あ゛っ…あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 いきなり、杉下の聞いたこのないほどの断末魔が廊下中に響きわたった。その瞬間、膨れ上がった右腕の肘から皮膚と骨を突き破って、太いチェーンソーがあらわれた。
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