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「とめて。」
彼女の、いつもとは違うびっくりするぐらい低い声に、僕は慌ててブレーキを踏んだ
キュッ、という音とともに、体が揺れる
先ほどまであどけない笑顔を浮かべていた彼女は、無表情に前を見つめたまま、動かない
「…どうするつもり?もうきっと、死んでるよ」
「そんなの、わからないじゃない」
「わかるさ。前の車、すごいスピード出してたじゃないか」
彼女は、僕を一瞥し、それからゆっくりとドアを開けた
車内に、雨の音と匂いが充満する
「傘を…」
差さないと。そう言って傘を差し出す前に、彼女は車を出て行った
僕は傘を開いて、あわてて後に続く
外に出ると、水を含んだヒヤリとした空気が、僕の頬を撫でた
雨のせいで、視界が白く濁る。ぼやけた景色の先に、彼女の背中
その背中が濡れないように、傘を傾けた。すると今度は、僕の背中が雨に滲む
「…ほら。まだ、生きてるじゃない」
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