雨の降る日

2/5
158人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「とめて。」 彼女の、いつもとは違うびっくりするぐらい低い声に、僕は慌ててブレーキを踏んだ キュッ、という音とともに、体が揺れる 先ほどまであどけない笑顔を浮かべていた彼女は、無表情に前を見つめたまま、動かない 「…どうするつもり?もうきっと、死んでるよ」 「そんなの、わからないじゃない」 「わかるさ。前の車、すごいスピード出してたじゃないか」 彼女は、僕を一瞥し、それからゆっくりとドアを開けた 車内に、雨の音と匂いが充満する 「傘を…」 差さないと。そう言って傘を差し出す前に、彼女は車を出て行った 僕は傘を開いて、あわてて後に続く 外に出ると、水を含んだヒヤリとした空気が、僕の頬を撫でた 雨のせいで、視界が白く濁る。ぼやけた景色の先に、彼女の背中 その背中が濡れないように、傘を傾けた。すると今度は、僕の背中が雨に滲む 「…ほら。まだ、生きてるじゃない」 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!