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それでも、いじめられるのはまっぴらごめんなので浮かない程度にはなじんでいたつもりだ。
あんな子に言われるまでもない。
一昨日。
この町で出来たカレシと別れた。
東京でも何人かと付き合ったし、たまにでかける程度のボーイフレンドなら何人もいた。それに、行く場所には毎回困ったりしなかった。彼らにはCD屋とかクラブとか居酒屋とか行きたいところがあって、あたしはそこに居ればいいだけ。
時給のないコンパニオンのような立場が好きだった。
東京ではー、
なんて。あたしはまだ恋しく思っているのだ。あの喧騒を。ごちゃごちゃした街並みを。地下鉄やら在来線やらを駆使して乗換案内を見なくても、どこへでもスイスイ行けた。
一昨日別れたカレシより恋しいのだから参ってしまう。
故郷は遠きに在りて思うもの、か。誰か有名な人の言葉だったと思うが忘れてしまった。
あたしの故郷は都会で、でも、越してきたこの田舎町にこそ故郷という言葉が似合うという矛盾。
キライじゃない。夕焼けと星空の綺麗な澄んだ空も高台から遠くに見える大きな山も海も。
自然は味方でも敵でもない。多分、あたし自身が敵なのだ。
過度のホームシック。
わかってる。
悪いのは今回もカレじゃなかった。
「桃ってさ、何考えてるかわかんない。」
此処のどくとくのアクセントでそう切り出されたとき、正直予感はしていた。別れの。サヨナラの。
「それを、わかろうとしてくれないなら終わりだね。」
あたしがそう言うとカレは目を丸くした。
「終わり?別れたいの?」
そんなことを言う。
「別れたくて言ったんじゃないの?」
あたしは不機嫌にそう答えると、繋いでいた手を無理やり振りほどいた。
「なんなんだよ。」
そう言うとカレは去っていった。まだキスもしてなかった。告白されたから付き合ってみただけの子だった。
まだ、一昨日のことだから一字一句再現できるけど、きっと一週間もすれば忘れてしまうのだ。
カレのどこを好きになろうとしたのか。
でも恋愛の痛みより鋭く深く、都会の喧騒を体中で欲していた。落胆していたと言ってもいい。
私はこの土地がキライにも好きにもなれない。余所者だ。
馴染める日など来るのだろうか。
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