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おやおや可愛い女の子。…懐かしさが上がってくる顔だ。
えーっと…数えで十…八?
あららら、高校野球の学生は年上だと思っていたのにいつしかそんなに歳を重ねていたのか。
早いなぁ…。
空気を蹴ると地面に向かって上っていく。彼女の正面に回り込むと、その顔が見えた。
懐かしい面影を残しているが、あの頃よりずっと大人っぽくなった。
本当に女の子は高校生で変わるんだなぁ。
「伊織」
呼び掛けられた声に彼女が振り返った。
くるん、と翻った髪にちょっとどきっとした。
「あぁ、優介」
彼女の隣に高校生の男子が追いついて並んだ。
お~、格好いい~。優しそうな良い男だ。短めの黒髪が最近の高校生に比べると凄く印象が良い。
てかみんな襟足長すぎ。痒くないのかな。
「あれ?部活じゃなかったっけ?」
「雨天中止だ」
「大会近いのに余裕ね」
「風邪ひくわけにもいかないしな」
なんていうか、真面目な男だな。口振りからして運動部のキャプテンとかやってるのかな?
「伊織はなんでこんな所に?追いつくと思わなかったよ」
「あぁ、…うん」
彼女は言葉を濁した。
そして指差した。
僕の出て来た家を。埃っぽい、家を。
「ここね、友達の家なの」
とくん。
動かない筈の鼓動を感じた。体を失っても、心がまだその感覚を覚えていた。
彼女が覚えていたように。
たかだか3年じゃ、消えない物も有るらしい。
僕の心とか、気持ちとか、記憶とか。
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