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牛若丸の爆(は)ぜるような疾走。
振るわれる刀の一閃は、暗闇にさす一筋の閃光。
通常の間合いを遥かに超越した踏み込み。
それでも、届かない。
遠すぎる―――その存在自体が。
《君は何に対してそんなに怒れている?》
彼を斬ったことにか?それとも認めたくない現実にか?または、自分の無力さにか?
薙ぎ払う剣閃が空を斬る。ソレは闇へと姿を消しては、別の場所に生まれ、言葉を投げかける。
「何が味方だ!!何が権限だ!!オレはただ、弁慶を救いたいだけなんだ!!それの何がいけないんだ!!オレの仲間を、オレの願いを、オレのすべてを、そんな言葉で簡単に片付けるな!!!!!!!!!!!!!!!」
渾身の力を込めた突きが、ソレの胸を突き抜けた。
しかし、やはりダメージがないのか、瞬き一つせずにソレは牛若丸を見つめる。
「オレたちは生きてるんだ!!お前みたいな造られた奴にそれが、分かるか!?」
分かるのか……よ。
牛若丸は泣きながら、更に刃を深く刺した。
《ならば、君は生きる為には何をしてもいいというのか?》
ほんの僅か、髪の毛一本ほどの感情の沈みが、その言葉には混じっていたような気がした。
《そのことに関しては同感だ。だから、私もそうしている》
ソレは右手を伸ばすと、胸元に突き立てられた刀を握りしめる。
《君たちをこの空間に留まらせる理由は、私自身が生きる為なのだ》
牛若丸の纏う光が小さくなり、青く変化する。
牛若丸の時が、止まった。
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