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天を裂くように打ち下ろされる土方の斬撃。
左腕しかない私を気遣ってか、ヒカルは当たり前のように右へと躱し、私はその逆へと飛ぶ。
(もっとエゴイストな漢かと思ったが……)
意外と戦い方を知っているじゃないか。
その土方の打ち放つ一撃は傾く屯所を吹き飛ばすには充分だった。
「ったく、脆ぇな」
チッと舌打ちをしてスキルを発動させる土方。
崩れ落ちる瓦礫を重力で地上へと掃くと、代わりに氷のスキルで足場を形成してく。
(いや、)
足場というには、それはあまりにも大きすぎる。
まるで空中に浮かぶ闘技場のような大きな空間。
他の戦場と隔絶されたかのように静かな氷結世界。
「さあ、思う存分やり合おうぜ」
此処が決戦の場だと言い張る土方。
しかし、その場に私もヒカルも足をつかない。
「お前が創り出した世界を二度も信じられるか」
「右に同じだ」
そこに罠がないと誰が言い切れる?
ヒカルは生み出した黒い星の上に、そして私はヴァルキリーの生み出す風の加護を得て。
それぞれ宙空で左右に分かれ、眼前の敵を見据える。
(一瞬で屯所を粉砕する奴の刀……)
対人なんてものじゃない。
最早、一国一城さえ相手に出来る兵器。
(鬼の副長と恐れられていた人間が……)
冥府に堕ちて、人間であることさえ捨てたか?
人間が人間である為の心を棄てたら……。
それは、もう――――
「鬼……か」
私は、いう。
(”何”がお前をそこまで屈折させた……?)
ヒカルとほぼ同時、私はそれを確かめるように大気の中を疾走した。
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