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「信長……お前…………」
生きてたのか、と続けようとした言葉を我輩は飲み込んだ。
まるで信長の周りだけ音が無くなってしまったような、そんな静けさ。
(いや、)
そもそもずっと傍で闘ってきた我輩が、信長の気配を察知できないなどあるのか?
そして何より、その出で立ち。
この戦いが始まったときとは違い、黒い外套(マント)でその身体を覆い隠している。
「何が……あった?」
見た目だけではない。
何か別人のように感じられるほど、異様な雰囲気を纏っている信長。
「色々と、失っちまっただけだ……」
目の色は褪せ、生きる気力させ感じさせない。
ただ、自慢の髭を触る仕草だけが、その名残りを示す。
「それを……説明する暇は、ないのか?」
「ああ……」
すまなさそうに天を仰ぎ、信長は深く瞼を閉じる。
「なあ、信長「なあ、十兵衛」
同時に開いた口は、信長に圧し潰された。
「この先で、俺たちの姫が他の王子と舞踊(ダンス)っちまってるらしい……」
ため息をつきながら嘲笑する信長。
「俺が、少し灸を据えてくるか」
冗談めいた言葉でも分かる。
“だからこれ以上、お前は先に進むな”という意思表示が。
「信長……」
「俺に、任せろ」
任せてくれ。
「お前を、」
――――絶対に負けさせねえからよ。
「”約束“だ……」
もう二度と、交わすことがないと思っていたその言葉をお前が持ち出すから……。
「約束、していいのか?」
我輩は思わずそう答えてしまった。
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