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あの桜の下で交わした約束。
思わずため息さえ出るほど、美しかったあの桜の季節。
そんな情景とは真逆に位置する、この戦場の中で。
「ああ、“約束”する」
信長は再び“約束”の二文字を口にした。
(そこにどれだけの気持ちが込められているのか……)
そして、それを無為にすることなど出来ない、無視することなどできない我輩がいる。
「莫迦(ばか)が……」
こんな状況でそんな言葉を口にするお前も!!
それを聞いて、素直に頷こうとしてしまう我輩も!!
「いつだって俺たちはそうだっただろう?」
遠い月日を感じさせる信長の声。
「俺が攻める為の矛で、お前が守る為の矛だった……」
お前は仲間を守れ、十兵衛。
「その剣は血塗られる為にあるんじゃない」
そういうと信長は外套(マント)を翻し、氷の大地を見上げる。
「なあ、信長」
渇いた風が冷たさを孕み、強く荒ぶる。
「お前の約束を我輩は受け入れた。ならば、我輩もまたお前に約束しなければならない」
我輩と信長の時を邪魔するかのように、声を何処かへと運んでいってしまいそうな暴風。
「成る程……な」
久しぶりにみたような気がする信長の微笑。
外套の中から右腕を出し、また自慢の髭に触れる。
「で、お前の約束は何だ?」
「牛若丸を――――守り抜く!!」
だから、
(お前も生きて還ってこい、信長!!)
言葉にはしないが、そう意思を込めて放つ。
「そうか……」
なら、より負けられないな……と、我輩の言葉に返す。
「約束ついでに一つ付け加えてくれないか?」
「……何だ?」
「もし、俺がお前を“裏切る”ことがあったとしたら……」
“お前自身の手で、俺を殺してくれ”
冗談ではなく、至って真顔で、真面目な眼で……。
(信長!?)
「あとは……頼んだ、十兵衛」
そう言い残すと、信長はフライシューズの出力を高め、空の中へ消えていった。
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