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0番の霊は大妖精の前に立つ。フッと右手が挙がった。
「…っ!」
ビクッと大妖精の体が縮こまる。ぶたれる。当たり前だ。捕手は大妖精に向いていないと助言し、代わりに別のポジションを指導してくれた彼への裏切りだ。
だが、一向にぶたれない。それどころか、頭に心地よい温もりを感じた。
「…なんで、怒らないんです?」
霊は何も言わない。代わりに本を一冊差し出した。なんども読み返した痕跡があり、カバーも付いていない。
だが、大妖精にはすぐ分かる。題名も筆者も分からない本。
ジャイアンツと言うチームに居て、0番や3番の背番号をつけ、全てのポジションをこなした選手の話。
大妖精は漢字はあまり読めない。だから啄む程度しか読んでない。少なくともその選手がすごい事をしていたことは分かった。
この本を読んで野球、いや打ち返し遊びを本気で取り組むようになった。そんな大切な本だった。
「なんでこれをあなたが…。」
0番の霊は笑ったまま何も言わない。大妖精は本を受け取る。そして霊は今度は一つのグラブを渡す。
他のグローブより分厚く、重みもある独特の形状。
それはキャッチャーグローブだった。
「私に…ですか?」
霊は頷くと、何かを伝えた。
「…はい!」
霊に連れられ大妖精は彼岸に向かっていった。
その姿を小町が見送る。
「ホント、二人とも器用なんだか不器用なんだか。」
小町は溜め息を吐きながら肩をすくめた。
「あの本の人物が目の前の霊だなんて思っても無いだろうに。」
「だからこそ師弟の関係が続けられるのでしょう。師が上であると分かっていて、その差が天と地もあると知れば、よほどの根性でもなくては弟は離れていくでしょう。」
小町は後ろに居た映姫に一瞬驚いたが、再び笑顔を見せる。
「そうですか?私は大妖精は教えても彼の弟だと思いますよ。」
「…結構な評価ですね。理由は?」
「なんとなくです。」
「なんとなくですか。」
小町は重い腰を持ち上げ、映姫の手を握ると消えてしまった。
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