転落

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焦げる様な匂いが鼻につく。 地面の冷たさに身震いし、僕は重たい瞼をゆっくりと開けた。 辺りには、獣か何かに荒らされたみたいに裂けている木々と、散らばる葉っぱ。 そして僕の目の前には、赤々と燃え上がる車が潰れていた。 「……!」 声が出ない。 あの潰れた車の中には、僕の大好きなお父さんとお母さん。 それにお姉ちゃんがいるんだ。 早く助け出さないと死んでしまうのに。 燃え上がる炎が熱くて、怖くて。 僕の足が動かない。 地面の土をぎゅっと握り締め、歯を食い縛りながらその場に座り込んでいる僕は、炎が燃え上がる光景をただ見ていた。
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