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両手からはみ出るサイズのピンクのクマのぬいぐるみ、またまたピンクのこれは…ローター、所謂大人の玩具。
増々怒りを助長され、手にしたぬいぐるみを今にも殺しそうになった時、その『クマさん』が首に何かを掛けているのにやっと気付く。
メッセージカードだ。
中には携帯の番号らしき数字と、『淋しくなったらかけてね』とかいうふざけた文句が書かれていた。
完璧に頭に血が上った和馬は、シーツもかなぐりすてて(すると彼は全裸になってしまうのだが)、ソファに投げ捨ててあった自分の鞄の中から携帯電話を引っ張り出して、華奢な電話を握りつぶす勢いでカードに書かれてあった数字を光速で打ち出す。
何が何でも怒鳴らないと気が済まない。いや、そんな事で気が済むはずがない。
和馬は『ホモである』と判っていた彼に『ラブホテル』についていった、という自業自得も忘れ果て、ワンコールですぐに電話に出た相手に怒鳴り付けた。
「貴様!!!てめっよくも…」
…頭に血が上り過ぎて言葉が出て来ない。
「ん、和馬?おはよう。メリークリスマス!プレゼントは気に入った?それとも、もう逢いたくなったのかな?」
のんびりとした悠一の声が耳に届く。
和馬は額に青筋を立てた。
「ふざけんな!!俺に何しやがった、この変態!!!逃げてんじゃねぇ!」
「ごめんごめん。朝起きてベッドにいないなんて…」
笑った声がプツリと突然途絶えて。
何故か、バスルームへ続くドアが開いた。
「マナー違反だよね」
と、笑いを堪え切れないといった表情の悠一が、電話を弄びながら登場した。
和馬は信じられない思いで彼を目つめた後、やっぱり怒りに任せて何も考えずに悠一に走り寄って掴み掛かって…精神的にも肉体的にも酷い返り討ちを喰らった。
悠一は一糸纏わぬ姿で駆け寄って来た和馬を嬉々として受け止めて、抱き寄せてそのままキスをしたのだった。
チェックアウトの時間に急かされるようにラブホテルから出て来た二人は、一方は顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、もう一方はのほほんと笑っていた。
…が、その姿は皮肉な事にクリスマスに乗じていちゃつきながら痴話喧嘩をしているカップルにしか見えなかった。
End.
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