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街は色鮮やかなイルミネーションで溢れかえっていた。
大通りを行く人々の殆どが、男女のカップルか家族連れだ。
いつもは黙々と独りで闊歩している背広姿のサラリーマンでさえ、私服姿の仲間と混ざって楽しそうに笑いながら居酒屋の門を潜って行く。
今日はクリスマス・イヴ。
独り者でさえ普段は音信不通の友人を呼び出し、何故かはしゃいで過ごす。
そんな不思議な、誰もが胸に楽しみと期待を抱えている、ように見える中…
少年が一人、雑踏の流れを逆らうように歩いている。
長めの焦茶色のマフラーにベージュのブレザー、同系色のチェック柄のズボンにスニーカー。薄めの茶色に染めた髪。歳の頃は16、7か。
学校帰りの高校生…に見えるが今日は日曜日だ。
誰かと肩がぶつかって、足を踏まれて…それでも少年は黙々と歩き続けていた。
黙々と…という表現には語弊があるかもしれない。
少年は自分の靴の先だけを見つめながら『ばんやり』と街の中を彷徨っていたのだ。
楽しそうな人々の笑い声も、張り切った飲食店の客引きの声も、少年の耳には届いていない。
ただ歩き続ける少年の瞳は何も映していないかのような、空虚さに包まれていた。
いつの間にか裏路地に入っていた。
雑踏に揉まれる事はなくなったが、今度は中年のオヤジどもから角を曲がる度にしつこく声を掛けられる。
うんざりしていた。
行く宛のない今日も、毎日も。
帰る場所もなく、仕事もないなら何処かの映画館で時間を潰すかネットカフェに入るだけ。
そんな空しい生活に、もううんざりだった。
そして、また、声が掛けられる。
何処か『その系統』の路に入ってしまったようなのだ。
少年は、今まで溜め込んでいた苛立ちと自分でもよく判別出来ないもやもやした憂鬱な感情をぶつけるかのように、馴れ馴れしくも肩に手を掛けてきた男の手を乱暴に振払う。
そして、思いきり息を吸い込んで振り向いたところで…
眉をひそめた。
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