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「やぁ。君ひとり?」
目の前に立っていたのは、背広姿のオヤジ…ではなく、いかにも『バンド活動しています』叉は『その関係者です』といった風貌の青年だった。
170は優に超えている身長に加えて、圧底の銀の飾りもけばけばしいブーツ。派手なファーのついた真っ黒いロングコートに、黒いパンツ。所々に銀のアクセサリーが光っていて。極め付けは、腰まで届いているだろう、長い黒髪。
全身真っ黒で闇に溶け込む所か、回りの街灯やクリスマス用のライティングのせいで明るい道の中では、返って悪目立ちしている。
「良かったらホテルにでも行かない?もうこんな時間だし…」
彼は人の良い笑みというより、悪戯っぽく微笑んでそんな言葉を投げかけてきた。
気が付かなかったが、言われてみれば、もう11時を回っていたのだ。
少年は困惑した表情を浮かべて立ち尽くした。
よくよく考えてみれば朝からロクな物を口にしていないし、このままいつものように映画館かネットカフェで時間を潰せば、窮屈な中ジャンクフードを貪りながら夜を明かす事になる。
下手をするとこの格好のせいで『また』補導されかねない。
だが、少年は『その系統』の人間ではなかった。
こんな見知らぬ男に付いて行ったらどうなってしまうのか。
かといって、この暗鬱な気分を劣悪な環境の中で更に悪化させるくらいなら、シャワーと広いベッドがある部屋で、マトモな食事が出来るホテルに…
少年のその表情と沈黙をどう受け取ったのか、彼は少々思案顔になると「ちょっと待ってて」と少年の手を掴み、すぐ近くにあったライブハウスのような店の入り口に少年を連れ込み、彼は暗い階段を掛け降りていった。
少年が考える事に疲れ、惚けたようにぼんやりそこで言われた通りに待っていると、彼は手に黒いコートを持ってすぐに戻ってきた。
短かめの丈のそれを少年に着せると、また悪戯っぽく笑う。
「その格好のままだとマズイからね」
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