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馬鹿みたいにその男に導かれるまま、気付いたら少年は所謂『ラブホテル』の一室にいた。
ラブホテルといってもサービスのいい高めの場所なのか、ダブルベッドはキングサイズで、大きな液晶テレビにステレオ、ベッドの横には二人掛けの大きめのテーブルセット、窓際にはソファ、フリーのドリンクバー、バスルームはドアを隔てた所にあり、清潔そうな大きなジャグジー風呂、ついでに洗面所とトイレは別々にあった。
そのどれもがモダンな感じで落ち着いた雰囲気の部屋だった。
金は勿論フロントで前払い、その男がぽんと万札を数枚出していた。
少年は今更になって『どうしよう』と悩んでいた。
悩んでいた所で状況は変わらないのだが…
何故、のこのこと付いてきてしまったのだろう。
その男が少々サドッ気のある雰囲気で、美形の部類に入る顔立ちをしていたからだろうか。
いや、自分はマゾではないし、そもそもホモでもない。
男がシャワーでも浴びている隙に逃げ出してしまおうか、とも思っていたが、彼にそんな素振りはなく。
自分のコートを脱いで、ついでに少年に着せたコートを御丁寧にも脱がしソファに適当に放った後、ゆったり椅子に腰掛けメニューを広げている。
そんな妙にのんびりとした態度の男を前に少年は呆然と立ち尽くしていた。
その少年に向けて、唐突に、男はメニューから顔を上げることなく、指先でちょいちょいと、こっちへ来るようジェスチャーを出した。
うだうだしていても仕方ないので、近付くと。
「どうしよっか。折角クリスマスなんだしケーキでも頼む?好きなもの頼んでいいよ、えっと君名前は?」
メニューと睨めっこしている男は、まるでついでのように名前を聞いてきた。
「………和馬」
「和馬?ん、俺、悠一ね。…じゃあ、クリスマスケーキ一つに、…面倒だからこのクリスマスセット頼もうか」
彼が指差したメニューには到底二人では食べ切れなさそうなドでかいホールケーキと、チキン、野菜の盛り合わせ、パスタにデザート、シャンパン…等が写真付きで載っていて。
焦った少年…和馬が「待った!」の声を上げようとした時には既に遅かった。
青年は注文を済まし備え付けの電話を置いた所だった。
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