三題噺『電車』『桜』『定期』

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今日はいつもと違う! 驚いた顔の母に私はそう言い放った。 そう、その日、私は珍しく早起きをした。 いつも遅刻ギリギリの時間に起床する私にとっては奇跡に等しい。 朝からコーヒーを飲んで、今日の天気予報も確認出来た。 今日は一日気温も高く暖かい晴れらしい。 こんなに時間に余裕のある朝はいつぶりだろう? ……ちょっと、思い出せない。 少なくとも高校生になってから何度かあったはず……でも、右手の指の数だけで足りるなぁ。 担任の先生は、私が毎日のごとく遅刻することを半ば諦めているが、単位は大丈夫なのだろうか? まぁ、いっか。 コーヒーを飲み終え、家を出た。 いつもと比べて、たしかに早いが、コーヒーをゆっくり飲み過ぎたせいなのか、走らないといけないほどではないが、それほど時間に余裕もなくなっていた。 しかし、私がホームルーム前の教室に着いたという時点でみんな驚くだろうな。 みんなの驚いた顔とざわつく教室を想像して、最寄り駅に着いた私は一人でニヤニヤしていた。 ちょうど良くあと数分もしないで到着する『電車』もある。 意気揚々と改札に向かい足を踏み出し、カバンから『定期』を出そうとした次の瞬間。 ……あ、『定期券』を家に忘れた。 今から家に戻っても確実に遅刻だなぁ…… あ、そこの公園の『桜』もう咲いたんだ…… 綺麗だなぁ ……。 今日はいつもと違う。 言葉の通り、今日はいつもと違った。 今日は学校をサボった。
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