一日目①日常プロノメイア

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 人間大だった歪みは、あっという間にちょっとした木ぐらいの直径に変貌していた。  それを見計らったように、ジャジャが距離を取る。一歩、二歩、三歩。彼女の動きに合わせ着物の袖と髪が揺れる。ひらひら。ゆらゆら。まるで魂を冥府へと誘う布のように。そして適切な距離――十メートルくらい――で立ち止まるとくるりと反転。特段声量は変わっていないはずなのに、間近にいる時のようなよく通る声で。 「さて――ワシは戦えんから、ぼーやが死ねばワシも死んじゃうけど、そんなことは塵芥(ちりあくたも)も気にせず頑張ってね!」  ぐっと、両の手をまな板の前で握り締めるジャジャ。嫌な励ましだった。やる気は出たけど。  ジャジャから視線を外し、歪みへ身体を向ける。まるで文字を書くように手の指先を空へ走らせ、『紋様術』を発動。虚空から等身大の『剣』を取り出し、切っ先と共に全神経を歪みへ。臨戦体勢へと移行する。  はてさて、鬼が出るか仏が出るか。どちらにしろ、偽物(フェイク)。鬼も仏も蛇も、人間も世界も。みんな総じてひっくるめてひとくくりに。あるいは人括りに。  まあ、何にせよ。  『魔女』であり『人間遣い』でもある彼女に遣わされて、今日も僕は剣を走らせる。 ――――  人形のように虚ろで人間のように空っぽな有象無象が有耶無耶に入り乱れる、魔女と人形の紆余曲折した"ニンゲン劇"の始まり始まり。
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