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始まりは、些細な事だった。
私という、些細なきっかけ。
どこにでもある一般家庭に生まれた私は、運命の悪戯か、はたまたただの不運なのか、王族にしか現れない『赤色』を持っていた。
それが元で、母は不貞行為を疑われ家庭は崩壊。母は獄死し、私は実の父に捨てられ、そしてその日から身体を売る生活が始まった。
幼い私が食い扶持を繋ぐには、とても自然な行為だったと思う。幸か不幸か、需要には事欠かなかったし。
見ず知らずの子どもに手を差し伸べてくれる人間などいるはずもなく、思い通りなくらい世界はありふれていて、思った通り現実にあふれていた。
今になって思えば、別に生きる必要はなかったのだけれど、同じように生きない理由もなかったので、まあそういう事なんだろうと納得する。
そして迎えた何度目かの朝、客だと思ったその男の人達は国の遣い様で、何でも国の跡継ぎが相次いで不幸を遂げた為に、私に順番が回ってきたらしい。
私は、浮浪者から一転、一国のお姫様になった。
私が王宮に来て早々――正確にはそれが起こったから私はここに呼ばれたのだが――巷では跡継ぎの不幸がまことしやかに囁かれるようになる。時を同じくして大流行する不治の病。輸出入の制限からくる圧倒的な食糧不足。生きる為の――戦争。人々のやり場のない負念は一つの噂を生み、対象はそれまで秘匿されていた呪いの赤へ。虚飾の赤を瞳に宿す私は、いつしかこう呼ばれることになる。
曰く、『不幸姫』と。
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