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「という作り話なのでした、と」
誰にともなくそう呟いて、テーブルの上に置かれた煎茶(ちょい濃い目)を一口、うん、やっぱり美味しい。
「何が作り話なんだい?」
と、部屋の対極、いかにも材質が良さそうなデスクの奥から声が飛んでくる。幼い少女だった。幼い少女の皮をかぶったワシの友人だった。
太陽のような橙色の髪に、月のような金眼。見てくれだけは良いのに、相も変わらずその狂言じみた雰囲気を隠そうともしないのは、それはそのまま奴の人となりを表していると思う。それはもう顕著に。
「別に。独り言じゃよ」
「おかしな事を言うね、ここにはぼくもいるのに。二人なのに独りとは、まるで突き放された気分だよ」
「二人? 一人と一人の間違いじゃろ」
「これだから統計でしか物を見れない人間は」
やれやれと大袈裟に肩をすくめる奴。『学園長』辞めて劇団にでも入ればいいのに。
「ワシ人間じゃないもん。魔女じゃもん。それにうぬにだけは言われとうないわ」
「心外だね。心外も心外大心外。言い掛かりも行き過ぎると、立派な人権の侵害だぜ?」
「うぬに人権なんてもんがあったとは、意外じゃ」
「うん、まあ言われてみればなかったね」
そう言ってあっさり引き下がると、奴は今しがたまで何やら書いていたペンを放り出し、黒皮の背もたれに体重を預ける。ぼふん、という音が聞こえてきそうな程クッションが効いていた。めっちゃ気持ちよさそう。相変わらずいい生活をしているのう、とは言わなかったけど。目の前のお茶に有り付けなくなるかもしれないし。
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