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鏡を見て、ニッコリ微笑んだ。
美緒、今日も可愛いね。頑張ろう。
自分に言い聞かせ、部屋を出た。
初夏の風が吹く、五月。美緒の働く書店にも、新入社員が入ってきた。
もう、一年経ったのか。
高校を卒業して、アルバイトしていた書店にそのまま就職した。今頃には結婚して、辞めているつもりだった。
「ありがとうございます」
ニッコリ微笑む。それだけで、大抵の男性客は喜ぶ。
多少のミスをしても、
「ごめんなさい。本当に」
と、少し目を潤ませれば許してもらえる。
「美緒さんは、今日も綺麗すっね」
少し、棘のある言葉が聞こえた。
「ナミちゃん?どうしたの急に」
まだ、社会人一ヶ月のナミは派手な化粧に、学生気分が抜けない言葉使いだ。
「さっき、店長に起こられちゃったんですう。美緒さんだって、同じミスするくせに、って言ったら倍怒られたの。美緒さん、店長とできてるんですか?」
話しているだけでイラっとする。
「彼氏こないだ、見たでしょ?」
美緒には、25歳の彼氏が居る。
付き合って、一年になる。
「ああ、あの安定イケメンの」
皮肉にしか聞こえないが、間違ってはいない。
「そー。公務員で、草食系で、なんでもいう事聞く、安定イケメンね」
彼女の、呆れたような、羨むような表情がたまらなく爽快だった。
そう、人からしたら羨ましい彼氏なんだ。
アンテイイケメンは、褒め言葉なんだろうな。
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