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きっかけはあまりにも、どこまでも些細で。道端に舞う砂埃みたいに小さく、誰もが下らないと評するくらいのそれだった。
しかし三繼期にとっては世界の秩序を裏切るくらい、大きくて。自分の世界がガラリと切り替わったような、そんな気持ちを抱かせるものだった。
三繼期は書物の表紙に両手を添え、静かに目を伏せる。彼女と初めて会った日のことを思い浮かべながら……。
×××××××
第一印象。
大人しくて内気。引っ込み思案。自信が持てず、俯き加減。弱々しい視線は戸惑いと恐怖心を孕んでいた。
他人を恐れ、避ける目。
緊張で固まる華奢な身体。
自分――否、自分とそのチームメイトから一歩引いたような姿勢。
それだけで分かってしまった。彼女が『この世界に来る前に受けて来た傷の深さ、そしてここへ来るに至る過程』を。
隣にいる自分の同期、神内冬実は嬉しそうに彼女をこの世界へ迎え入れていた。勿論自分もそうだ。これ以上彼女が怖がる姿を見たくない。悲しい顔をさせたくない。笑顔が――見たい。心からそう思った。
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