回想

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回想

「おい有栖。昨日のサッカー見たか!」 校門を出ると後ろから山宮が話し掛けて来た。 山宮は小学校からの友達で、有栖と同じサッカー部だ。 「サッカー? 昨日やってたっけ?」 有栖は首を傾げた。 「見てないのかよ。すごかったんだぜ、あのロングシュートって、聞けよ!」 どうでもよさそうに聞いている有栖の肩を山宮は叩いた。 「そういえば、有栖」 「なんだよ」 「今日、隣のクラスの奴が、お前のこと馬鹿にしてたぞ」 「またアイツ等か」 有栖は嘆息した。 いつものことなので気にもしない。 「アイツ等、有栖がサッカーうまいのひがんでんだよ」 山宮は少し冗談のように言った。 「まぁ、中学生のひがみ何てそんなもんだよ」 「俺達も中学生だろ?」 「俺はそんなひがみはしないからいいんだよ」 「ははは、なんだそれ」 山宮は一人で笑った。 「俺の事はいいけど、お前は大丈夫なのか?」 笑う山宮の横顔に向かって、有栖は真剣な表情で聞いた。 「ん、何が?」 「わかってんだろ?」 「ああ、怪我の事か……」 山宮は足に怪我を負っている。 本人は大丈夫と言っているが、怪我をしてから1ヶ月もたっている。 「……もうすぐで治るみたいだ」 この言葉も何度も聞いた。 「……分かった。早く一緒にサッカーやろうな」 「ああ」 このやり取りも何度もやっている。 「じゃあ、俺こっちだから」 山宮は一軒家の並ぶ角を足早に曲がって行った。 「はぁ」 有栖は深いため息が零れた。 真っ直ぐ家に帰る気にはとてもじゃないけどなれない。 有栖の足は家とは違う方へ向いていた。
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