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それに現在時刻は六時五十分、後十分で門限なのだ。
あの鬼のようにうるさい女寮官の説教だけは避けなければならない。
「おっさん、光の速さってわかるか?」
「はあ? てめぇ何言ってやが――」
不意に冬夜はニヤリと微笑む。
ヤクザが異変――冬夜の足が無くなっていることに気付いたときには既に、何か斬撃のような衝撃がヤクザのすぐ横のコンクリートに叩きつけられていた。
「な、な――」
ヤクザは酔いが醒め、代わりに全身を恐怖が包み込んでいくのを感じた。
お化けが怖い、そんな生半可なモノではなく、生物としての死に対する根本的な恐怖だった。
これこそが“超能力”、異能の力、科学の結晶である。
「お、お前まさか、『光の福――!?」
腰が抜けたのか、地面にへばりつきながらもなんとか後退を試みるヤクザは何かを言いかけたが、しかし最後までセリフを言い切ることはなかった。
「……俺のこと知ってるのかよ。あー、なら最初から名乗っときゃよかった」
ヤクザの至近距離に光を放ち気絶させた冬夜は軽くため息をつく。
そしてその場でくるりと踵を返して、足早にその場を去った。
ふと気になって時計を見る。長針はちょうど12を指していた。
「なんでこーなるんだよ俺……」
冬夜がその後寮官室から出て来たのはたっぷり一時間後のことだった。
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