14mmの紫煙

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冷え切った部屋にカタカタと一定のリズムだけが響く。 「ねぇ、シノ」 煙草片手にパソコンに向かってる君に呼びかける。 もう俺が呼んでも振り返ってくれないんだね。 一緒に居るのにまるで空気みたい。 「ねぇ、シノってば」 「ちょっと待って」 仕事が忙しいのは分かってるつもり。 それでも寂しさを紛らわせなくて、わがままを言ったのは俺。 会えば喧嘩ばっかで、気付いた目を合わせることも、会話すら減っていった。 「もう…、別れよ」 「…ん」 振り向かせる為に費やした時間なんかに比べれば、会えない時間なんて我慢出来るはずだったのにな。 だけど耐えきれなくて、好きすぎて、傍に居るにはツラすぎて…。 そう思って考えて、絞り出した言葉さえも短い返事。 本当にもう終わりなんだね。 「ねぇ、シノ…、最後のわがまま聞いて?」 「なに」 「目、シノの目が見たい」 パソコンから逸らして数秒だけ合ったその瞳。 たまに見せる、その冷めた瞳が好きでした。 「ありがとう…本当に、大好き…だったよ」 「将生、」 「…っバイバイ」 この部屋には、思い出にさえならない物が溢れてるから…。 寂しいけれどもう離れなきゃ。 最後に見た顔に浮かぶ涙は。 それは…、寂しさから?煙が目に入ったから? …期待するだけ無駄なのに、バカな俺。 君の気持ちは煙草の煙みたい。 ゆらり、ふわり。 どう足掻いても掴めなかった。 ─END .
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