想紫苑

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生活観のない、殺風景な6畳のマンションで私はカーテンも開けぬまま静かに息を整えていた。 机に置かれた無機質な物体。 黒く、冷たく、硬い物体。 それは恐怖に似た威圧感をかもし出している。 それに触れることを、私はこの数時間ためらっていた。 これを手にし、こめかみに1発銃弾を撃ってしまえば、私の望む最大の幸福はすぐに訪れることになるだろう。 この静かな空気を感じていれば、私は時の流れすら忘れて、ゆったりと死んでいけるのではないかと思った。 意を決して手を伸ばした瞬間、無機質な音が部屋の空気を揺るがし、私はそれに触れる直前で手を止めた。
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