128人が本棚に入れています
本棚に追加
部屋の中から、どうぞ、と言う声が聞こえた。
ここの主人の声だろうか。
少女は考えていた。
男に主人に会うと言われた時から少女の頭の中には、父親と同じくらいか少し年上の男が浮かんでいた。
しかし今聞こえてきた声は想像したよりかなり若く感じられた。
「失礼します」
少女がそうこう考えているうちに男は目の前の扉を開けてしまった。
部屋の中には落ち着いた色柄の着物を着た男が片膝を立てて、煙管をくわえながら座っていた。
男は適度な長さで切りそろえた黒髪に切れ長の眼は黒く整った顔つきをしていた。
少女には目の前の男がくわえているものが何かは分からなかったが、とても綺麗なそれに目を奪われていた。
「座りなさい」
目の前の男、黒鳴館の主人と思わしき人物に座るよう勧められ我に返った少女は黙って正座をした。
顔を見ていたわけではないが、失礼なことをしてしまった、と少女は焦っていた。
「遠路はるばる黒鳴館へようこそ。私は黒川玲(クロカワ アキラ)、ここの主人をしている。以後お見知り置きを」
「私は……」
「いい」
少女が主人、黒川に続き名乗ろうとすると黒川に止められた。
「ここでは今までの名は必要ない。お前はこれから若葉(ワカバ)と名乗りなさい」
「わ、かば……」
「そう、今日からお前の名は若葉だ」
黒川はにっこりと笑って少女に告げた。
最初のコメントを投稿しよう!