5人が本棚に入れています
本棚に追加
あの頃、私は寝台特急彗星に常務していたと思う。
新大阪駅の規定発車時刻まであと30秒と無い。
ホームには見送りで来ている人で溢れていた。
そんな中、1組の親子を見つけた。
「また会えるからね」
「元気にしてなさいよ」
ジリリリリリリリ...
ホームには発車ベルが響いている。
「また手紙書くね」
「頑張って働いてきなさいね」
規定発車時刻はもう10秒以上過ぎていた。
私は、親子の会話がキリ良く終わったとこで、ドアを閉めた。
そう、この数10秒こそが車掌である私が出来るせめてものプレゼントなのである。
ビィィィィィ
出発合図を機関士に送ると、前方から警笛が聞こえてきた。
ピーーーーーー
まもなく列車は動き出す。
「頑張ってね-------」
涙を流しながら手を振っている親。
窓から顔を出し、必死に手を振る少年。
ホームにいた親が列車最後部にいる私の横を流れていったあと、後ろを向きホーム確認をした。
ホームにはいまだこちらに手を振っている親がいる。
あの親の心情を想いながら私はアナウンスを流した。
最初のコメントを投稿しよう!