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ざわめきと喧騒。
慣れた煙草の匂いを、私は深呼吸する。
夜に期待する人々の静かな熱気は、狂った夜を彩るアクセサリーだった。
片手をあげると、しなやかな動作でボーイがワインを注ぐ。
透き通るような、赤。
私の体の内側を流れる血液と、きっと同じ色。
本当はビールや日本酒が好きだと言ったら、目の前のこの男はどんな顔をするだろう。
「僕がオーダーするよ」
「いいえ――どうしても私がオーダーしたかったの」
「華さん?」
「ごめんなさいね?」
立ち上がって、微笑む。
今の自分を鏡で見たら、きっととても楽しそうに笑っているんだろうと思う。
「華さん? 急にどう――」
「私、天秤にかけられるのも、試されるのも好きじゃないの。――ごめんなさいね?」
掲げたワイングラスを、勢いをつけて傾ける――男の頭上に。
「な――!」
「ここの支払いは、私が。――クリーニング代は、ご自分で」
チェックメイト。
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