第一章/変動はいつも突然やってくる。

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宿で部屋を取ってから、二人で宿の隣にあるお店で晩御飯を食べていた時に、唐突に助けを呼ぶ声が辺りを支配した。   「ー誰か助けて下さい!私の子供がッ!!」   年配の女性が悲痛な声を上げて、店に入ってきた。   あまりの切羽詰まった雰囲気にお店にいた客の数人が、どうしたんですか?と声をかけていた。   ルーディとエディアも、様子を窺っていた。   「私の子供が『静寂の祠』に入ってしまって!誰か助けて下さい!!」   「静寂の祠ッ!?」   客の数人が、驚きの声を上げている。   「兄さん…静寂の祠って何だったかな?どっかで聞いた事ある気がするのだけど…」   エディアは思い出そうと、首を傾げて記憶を辿るが答えにはたどり着けなかった。   「おいおい…忘れたのかよ?静寂の祠はこの辺りじゃ有名な場所だろう。得体の知れない何かが住んでいると噂されている祠だ」   さらに、エディアに説明する。   ー何か得体の知れない怪物がいたら怖いからと、住民の依頼でアスカナの街の騎士団から数名派遣されて調査したが…   誰も帰って来なかった。 だけど、中にさえ入らなければ問題がある訳でもなかったから、騎士団員行方不明事件後は封鎖されていた。   そして、いつの頃からか封鎖していた祠の入り口の板は劣化し、ボロボロになっていたが…誰も近寄りたがらないのでそのままになっていた。   ー当時は静寂を好む祠と呼ばれていたが、今は静寂の祠と呼ぶ方が多い。   「あッ!思い出したよ。昔、僕達が子供の頃にアスカナで騒ぎになってたね」   そう。 だからこの周辺の人間にとっては畏怖の対象となっている祠だ。   「ーお願いします!お礼は出来る限りしますからッ!!」   悲痛な声とは対照的に客の大半は苦笑いを浮かべて、後ずさりしている。   「…まぁ当然の反応と言えば、そうだな。誰でも命は惜しいからな」   「…街の正規の騎士でも帰って来れないから、仕方ないかも知れないけど…なんだか…虚しいね」   エディアは悲しそうに、言葉を漏らした。   「ー仕方ないさ。俺達にも生活があるし、命を捨てる事はできねぇよ」   なんだかなぁと、エディアは呟いて後味が悪い嫌な感覚だけが残った。   「…エディア、そろそろ部屋に戻って休むか?」   そうだねとエディアの言葉が返ってきて、二人は会計を済ませて、それぞれの部屋に足を向けた。  
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