16人が本棚に入れています
本棚に追加
『美味しい!凄く美味しいよ!!』
そんな言葉を期待して初めて一人で作った苺のタルト。
結果は……大失敗。
エプロンなんて意味が無いくらい粉を被って、頬には苺の果肉、目の前には努力の果てに出来上がった形歪な苺のタルト。
「やっぱり錫也に手伝って貰えば良かった…」
大好きな彼の為に一人で作ろうと意気込んで、空回りして大失敗。
こんなところ見られたくない…。
早く片付けなくちゃ…。
と、思ったけれどもう遅かった。
「どうしたの…?これ…」
「よ、羊君!?み、見ないで!!」
急いでキッチンから押し出す。
後ろ手にドアを閉める。
恥ずかしくて涙が出る。
「ど、どうしたの?月子?」
「きょ、今日…羊君の、誕生日だから…ケーキを作ろうと思ったの」
零れる涙を拭いながらキッチンの惨状について話した。
「それで、月子は真っ白になってるんだね」
「ごめん、ね…うまく出来な…ッ」
「いいよ…僕は月子の気持ちが、嬉しいから…」
ふんわりと抱きしめられる。
頭を撫でられ涙はいつの間にか止まっていた。
「ねぇ、月子が作ってくれたケーキ、食べたいな」
「ぇっ、でも失敗しちゃ…」
「関係ないよ。ねぇ、食べよ。そうだ、僕、月子に食べさせて欲しいな。もちろん、あ~んって言ってね」
「えぇ!?」
「僕の誕生日だもん、やってくれるよね?」
こんな笑顔で言われたら断れない。
私は小さく頷いた。
「羊君、お誕生日おめでとう…」
「ありがとう、月子。愛してるよ」
苺タルトの味がどうだったかは、秘密…。
最初のコメントを投稿しよう!