気のゆるみ

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半ば彼女に押されるように私は着付けの体験の日程を決めてしまった。 色のない平凡な毎日に、何もかも中途半端だった私は将来の1歩になるかもしれないとどこかで期待していたのかもしれない。 でもそれには当たり前だが莫大なお金がかかるという事までは知る由もなかった。 着付けの無料体験の日彼女は相変わらずニコニコした笑顔でやってきて すぐには着付けの体験をせず、私の過去についてや家族の事、とりとめない話をした。 そこで私は美大を出ている事、カラーコーディネートの資格を持ってる事、でもそれを生かせず悶々としている事なども話してしまった。 「勿体な~い。生徒さんでも着物もね沢山 持ってる人はいても、帯との色合いとか合わせれなくて、ちぐはぐな着付けしてる人沢山いるのよー。 ぜひうちでそんな生徒さんに見立ててあげとほしいわ。」 彼女は私の自尊心を揺さぶって、どんどんと話を膨らませていき、私も半ば自分がそんな仕事が出来たらなどと憧れのような気持ちを抱き始めていた。 彼女はまずは自分が肌襦袢になり、するすると着物を着て、いとも簡単に帯をしめ着物を着せてみせた。 そして用意していた私用の着物を取り出し私に着付けてくれた。 「わーなかなか似合うわね。だってみちるさん三人のママには見えないくらい可愛らしいし~。」 私も着物を着た自分を鏡に映し、まんざらでもないかな…なんて思ってしまった。 そう…その時既にまんまと彼女に私は乗せられている事にも 気付かずにただただ着物を着たいつもと違う自分に高揚感さえ覚えていたのだ。 今考えると彼女にとって、育児に疲れ将来に希望をいだけない私を生徒にするのは容易い事だったのかもしれない。 私は自分の意思の弱さをまたもや神様に試されたのではないかと今になっては思う。 何故かというと、私は以前入っていた新興宗教でも、何でも相談できるようになった信者の人に、これを持てば幸せになれる…と言われるがまま印鑑を買い、高価なペンダントを購入していたからだ。 この件以外にも私は痛い経験を懲りずにしている。 私馬鹿よね~ お馬鹿さんよね~ って…でも思い立ったら動いてしまう自分ほんまに洒落にならない。 今では玄関でチャイムがなっても話聞く前に断るか、居留守を使う事にしている。
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