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――――風が頬を撫ぜる。
黄色い砂塵を巻き上げながら吹き抜ける。
小さな日陰から毎度変わらない景色を見ながら青年は上半身を起こした。
「…神なんて…大嫌いだ…。」
口癖になってしまった台詞を、さして感情も込めずに吐き出す。
神からの贈り物。
大嫌いな力。
『何が欲しい?』
「世界中の悩んだり苦しんだりしている人を救える力。」
『良いだろう。』
過去の自分をぶん殴りたい。
確かに、ある意味では救える。
でも、それは…望んでいたものではなくて…。
あの日、この手が触れた者が砂になった。
次の日、言葉を交わした者が砂になった。
それから、関わるもの全てが砂になった。
人間も、動物も。
テレビでは、世界中で、色々なモノが砂と化すという奇怪な現象を取り上げていた。
今なら解る。
砂は、記憶。
考える肉体が無いなら、悩み苦しむ事はない。
だから砂になった。
この力が『救った』から。
「……くだらね…。」
砂を手で掬い上げると、指の隙間からこぼれ落ちる。
記憶の断片は、眠ることさえ許してはくれない。
自己主張の強い、恐怖の記憶が否応なしに再生される。
ため息を吐きながら黒いフードを目深に被った。
気温はそこまで高くないが、いかんせん、砂からの照り返しが酷い。
ひきつるような肌の痛みに顔をしかめつつ、自分の育った街を歩いた。
人も動物も植物も、全て砂になってしまった。
安直だった過去のせいで。
かつては人で賑わっていた大通りを砂の渦が走る。
広場の小さな噴水は砂漠のオアシスさながらに輝いていた。
その横をすり抜け、いつか見たような街角に立つ。
何でこんなことになってしまったのか。
何とかして止められなかったのか。
考え始めるときりがない。
拳を握り締めようとして、ふと、違和感を感じた。
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