プロローグ。

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「俺、伊智加を迎えに行くから少し番頭しててくれないか?」 あたしの家は銭湯を経営している。 沸かし湯や循環湯ではなく、源泉を使ってる。 代々続いてる銭湯。 あたしには兄がいるから後は継がなくていいんだけど、結婚をすすめる父は何だか遠回しに『出ていけ』と言ってるように聞こえる。 これはまぁ、あたしの被害妄想であってほしいと思っている。 「いっちゃん、どうしたの?」 『いっちゃん』とは伊智加の愛称。 「何か熱出たみたいでさ。 肝心の親父は朝からどこか行って帰ってきてないし」 オロオロしながらお兄ちゃんは状況を説明する。 溺愛している愛娘だからこそ余計に心配なんだろう。 「そっか。 あたし番頭しとくから、いってらっしゃい」 あたしは軽く机を片付け立ち上がった。 「ありがとな!」 お兄ちゃんはあたしにお礼をいうと、さっさと行ってしまった。 ……うん、忙しい人だな。
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