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おぼろげな記憶を手繰り寄せ、あの、遠く幼い日を思う。
話すことに学はなく、ただ、そのひそのひが楽しいか、うれしいか、悲しいか、そんな感情に振り回されていた時代だった。小学生の自我など所詮はまだ未発達で、とはいっても今思えば中学生のころもあまり大差はなかったような気もするが、つまりはまだまだ子供だったのだろう。
それでもやはり女子の精神発達は早い。男子の馬鹿馬鹿しいやりとりを見ながら、「男子ってやぁね」だなんて背伸びしたファッション雑誌を捲っていた彼女たちもいた。
委員長は彼女たちとは違い、教室の隅で本を読んでいる大人しいグループの一員だった気がする。女としてはまだまだ子供だったが、理性がある分、彼女たちのほうが、当時の私には大人びて見えたものだ。
「君は、ずいぶんと―――あか抜けたものだな」
「榊くん、それは誉め言葉なのかしら?」
「純粋に驚いているだけだ」
いまや彼女にそのおとなしかった面影はなく、大人の知性と柔らかさを兼ね備えた女になっていた。………少し、騒がしいのが傷かもしれないが。
「ほら、今で言う高校デビューしたのよ。中学まではみつあみ真面目ちゃんやってたんだけどさ、ああいうタイプって、年が上がるとどうしてもいじめられちゃって」
「………明るく話すことじゃないよ」
「そ? まあ、だから悔しくて、高校じゃ人気者になるんだー!! って意気込んで、こんな私が出来上がりーってね」
胸を張る永山に、久喜はほほえましいと口角を上げた。
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